OZAWA 2.0 の現状と可能性

Chikirinさんの選挙で必要なのはOZAWA 2.0というエントリーがなかなか秀逸だ。ようはドブ板選挙をもうちょっと工夫して政策ベースの争いにしませんか?という問題提起。今日はこのOZAWA 2.0の各党の取り組み具合と可能性について考えたい。
実はこの手の問題意識を抱えている議員は多い。以前ある国会議員の話を聞いたとき「議員が政策で選ばれるのではなくて、地元で何回盆踊りで踊ったか、冠婚葬祭にどれだけ顔を出したかで決まってしまうのは問題だ。」と強く言っていた。同じように自民党田村耕太郎もTwitterで政策ベースでの選挙の必要性を発言している。

政策よりもドブ板のが集票力がある

このドブ板から政策の議論をしようという流れは実践においても過渡期で、色んな取り組みがなされている。今年の4月には自民党が政策的なマーケティング調査を初めて行った*1し、政党の政策を比較できるようなマニフェストも定着した。このように日本の選挙はドブ板から政策ベースの議論を重視する方向に動いているように思える。
ところがどっこい、より集票力があるのはどうやらドブ板の方らしい。民主党は2003年に外資系のPR会社フライシュマン・ヒラードと契約して、自らが掲げる政策をどうやったら国民にPRできるか徹底的にマーケティングしたが選挙で勝てなかった。今回の選挙の民主党の勝利も政策的な議論で勝っていたかと言えばNOで、議論は常に「まずは政権交代」の7文字で終了だった。2005年の郵政選挙も政策よりも「刺客」と「抵抗勢力」みたいな構図がウケていたように思う。その構図に民主党は入っておらず、結果、埋没した。
つまり結局のところ多くの有権者が関心があるのは政策ではなくて、候補者や政党がどれだけ信頼できるか(あるいは信頼できないか)というイメージの部分なのだろう。政党や政治家にとって金銭や女性のスキャンダルが致命傷となるのはその証拠だ。政策で勝負なら別に女に汚くてもいいじゃない、という論調は日本では聞いたことがない。今のところ政治家に求められる一番の要素は政策立案能力ではなく「清廉さ」なのだ。
もう一点、政党自体にも政策ベースで戦えなくする構造がある。結局のところ政党というのは議員という個人事業主の集まった「党派」にすぎず、「組織」としての推進力はほとんどない。トップダウンで命令しようにもトップはすぐに変わるし、議員は議員らで独自の選挙のノウハウを持っており(特に中選挙区時代からの議員)、いくら党本部が政策ベースでと指示したところで落選という形で責任をとるのは党ではなくて候補者本人だ*2。結果、候補者には集票できると信じられているドブ板に走るインセンティブが働く。政策で選挙を勝負するのであれば、党が落選した候補者の面倒をみる制度も充実させる必要があるだろう。

ネットのドブ板って従来のドブ板と性質が違うよね

こんな感じで政策ベースの選挙戦までは厳しい道のりだ。だがしかしネットのコミュニケーションは少し様相が異なる。ネット上のコミュニケーションって結構政策的なコミュニケーションが取れている*3。自分が身近に感じている例が議員のTwitterでのつぶやきだ。例えば「盆踊りなう」なんて発言したところでほとんどバリューがなく、RTもされないだろう。これは従来のドブ板ならとてもバリューがあったことだ(おらが町内の祭りに議員がきた!的な)。むしろ議員の発言のうち政策的なものがより多くRTされ議論を呼んでいるように思う。Twitterを通じて国会議員って結構日本のこと考えているんだなとか当たり前だけど新鮮に感じた人も多いんじゃないかな。少なくとも自分はそう思った。
ようは議員に親しみを持つきっかけが従来のドブ板とは違って、若干政策的なものが入ってくるのがネットのコミュニケーションだ。ネット上では握手もできないし、「雰囲気」とか中身のないものは伝わらず、中身のあるものが伝わる性質がある。OZAWA 2.0の可能性はこの部分にあるように思う。つまり、これから数年の間にというのは無理でも、ネット上での政治・選挙情報が解禁され、溢れていくにつれ徐々に政策ベースでのドブ板が浸透していくのではないだろうか。政策ベースのドブ板は国民の政治リテラシー能力を高めるきっかけになるし、このリテラシーはネットを用いた直接民主制には不可欠な能力だろう。やはりまずはネットでの選挙活動の規制の緩和だ。
とまあ、ネットでの選挙活動解禁がOZAWA 2.0をもたらし、国民の政治リテラシーを高めると随分飛躍した感があるが、可能性があるってことでいいんじゃないかな。この力の要因はネットの選挙活動というのは候補者本人の情報に触れられるって点だろう。ブログにしても、Twitterにしてもネットのコミュニケーションって見てる人はダイレクトに本人のモノを見る。そこには情報をキリハリする中間業者は存在しないし、議員の側もなるべくわかりやすく読んでほしいからわかりやすく工夫する。これがより促進していけば政治リテラシーにとって大きな作用をもたらすのは明白だ。
佐藤栄作は辞任会見の時に「テレビと話したい」といって(発言を切り貼りする)新聞記者を追いだした。しかしそのテレビも同じように発言をキリハリしたり、政治を茶化して報道するようになった。ネットにおいてようやく議員は有権者にダイレクトに情報を伝えることができるようになったのである。(了)
 
(今日のエントリーをまとめて箇条書きに)

  • 現在、実践の場でも政策ベースで取り組もうという流れはある。
  • でもドブ板の方が集票力があるらしい。
  • 一方でネットでは結構政策的なコミュニケーションが取れている。
  • こっちの方に活路を求めれば長期的には政策ベースの議論になるのではないだろうか。
  • あと、国民の政治リテラシーも上がるよ。

*1:日経net「自民が「政策マーケティング」 衆院選準備、100激戦区で 」:自民党は次期衆院選準備で、各選挙区で有権者がどのような政策を望んでいるかを分析する「政策マーケティング」という手法を導入する。各候補者が街頭演説やリーフレットなどで効果的に政策をアピールできるよう支援する狙い。党執行部はすでに系列シンクタンクに調査を指示しており、月内にも報告書をまとめる。欧米では一般的な選挙戦術だが、自民党では初めてという。(2009年4月19日)

*2:自民党が2004年にプラップ・ジャパンと契約してPRについては党本部がリードした際、すさまじい抵抗にあったと案を主導した世耕弘成は述べている。『自民党改造。プロジェクト650日』に詳しい。

*3:他にも例えばネトウヨと呼ばれる人たちにしてもベースは政策的なモノだ。感情的なものもだいぶあるけど。