塩爺時代の産経の論調

産経は日本経済を政争の具にします(唖然)
小泉政権時代に塩川正十郎財務大臣が連発していた「円安誘導発言」
目が回る程に時間がないんだけど、ふと見てしまった上2つの記事が気になって塩爺時代の産経の報道姿勢を調べてしまった。
上のリンクによると産経は菅発言を(1)「国際協調」なしでの (2)「根拠の乏しい口先介入」で市場を混乱させたってという2つの理由で批判してるね*1。じゃあ口先介入してた塩爺時代は産経の論調はどうだっただろうか?ってのが本エントリーの趣旨。
ただその前に留意点を2つ。

  1. 2002年当時から介入に関しての考え方が変わっている:単独での介入自体が良くない/効果がないという認識が広まっている。
  2. 社会の考え方が変われば当然新聞の論調も変わる。

てなわけで仮に産経の姿勢が変わっててもしょうがないっちゃあしょうがないんだけど、とりま、当時の状況から。

  • 塩川の円安誘導発言は2001年12月。
  • それ以前に2001年9月に既に(口先じゃない本物の)介入を行っている。ただしこの際は数日前にアメリカ財務長官に会い、協議している。
  • 塩川の口先介入は効果なく、結局2002年5月に今度は国際協調なしの「単独」介入を行っている。

こんな環境下での産経の論調を調べてみた。結論から言うと産経、これら一連の介入と口先介入についての批判の論調はない。むしろ歓迎ムード。
まず、下の記事は塩川の円安誘導発言後2週間くらい経ったとき*2の記事。

産経新聞 2002年12月24日 東京朝刊 総合・内政面
政府も与党も野党も円安誘導に願い託す? デフレ解消期待/新党でも検討
デフレ克服の切り札として、政府・与党と野党の双方で現在の一ドル=一二〇円前後の円相場を下げる「円安誘導論」が急速に広がっている。輸出企業の追い風となるだけでなく輸入物価の上昇がデフレ解消につながるためだ。保守党と民主党の一部による新党結成でも検討されており、今後の小泉政権の経済運営でも大きな焦点になりそうだ。
◆対外協調必要だが…
円安誘導論をめぐっては、自民党額賀福志郎幹事長代理や保守党の野田毅党首らが折に触れ「円はなだらかに安い方向に誘導していく政策が考えられていい」と主張。自民党有力者も最近、先進各国が円高ドル安の為替政策で一致した昭和六十年のプラザ合意を引き合いに「三年くらいの期限付きで円安に固定するよう米国にお願いするしかない」と述べている。
さらに、保守党との新党結成を目指す熊谷弘民主党副代表が政策の柱として円安誘導を打ち出したことで議論は一気に過熱。民主党枝野幸男政調会長らがもともと円安誘導論を提唱していたこともあり、同党の菅直人代表は「効果があるなら、どんどんやるという方向で議論してほしい」とわざわざ熊谷氏に同調してみせ、新党の“大義”を打ち消そうとしている。
これまでの小泉政権の経済政策をめぐっては、政府と与党の対立が際立っていた。しかし、一連の円安誘導論は従来の構図と違い、政府側にも円高是正の機運があることが特徴だ。塩川正十郎財務相は現在の為替相場は行き過ぎた円高だとみており「財務省幹部が与党の根回しをしている」(自民党関係者)との指摘もある。
これは構造改革と当面の景気刺激策のはざまで、財政や税制上の有効なデフレ対策を見いだせない小泉政権のジレンマでもある。円安誘導の手立ては、円売りドル買いの市場介入や日銀による米国債の購入など日銀がかかわるものばかり。デフレの責任を日銀に押し付けている面も否定できない。
首相は来年三月に任期切れを迎える速水優日銀総裁の後任は「デフレ退治に積極的な人」と強調しており、円安誘導論と次期総裁人事が結び付けられる可能性もある。
もっとも、円安誘導は日本だけの事情で実現するのは困難。景気が悪化している米国が、対日貿易赤字の拡大につながる円安誘導を容認するかどうかは不透明だし、中国などアジア諸国も対日輸出への悪影響を懸念する可能性が高い。各国との協調が得られなければ、「絵に描いたもち」になる。
自民党内でも、麻生太郎政調会長堀内光雄総務会長らは「景気が悪いまま輸入物価が高くなると大変なことになる」(堀内氏)と慎重論を示している

こんな感じで批判的な論調は全くない。ラスト2段落の文脈は読者に批判的な印象あたえることなく、「円安誘導、気をつけてやってね」みたいなすげーソフトな書き方。むしろワラタのは菅の「効果があるなら、どんどんやるという方向で議論してほしい」発言で、なんだ、産経より菅の意見の方が一貫してんじゃん。カンだけにイッカンなんt・・
さて次。もう一つ引用は政府が2002年5月に「単独」で介入した時の記事。もし今回の菅発言を「国際協調を無視」って事で批判してるならこちらも産経は批判してなきゃいけないはずだ。

産経新聞2002年05月23日 東京朝刊
政府・日銀単独介入 円高阻止強い意志 30億ドル規模「景気回復の正念場」
 政府・日銀は二十二日、一ドル=一二三円台まで急伸した東京外国為替市場で、八カ月ぶりに円売りドル買いの市場介入を実施した。市場筋によると、三十億ドル(約三千七百億円)程度と大規模な単独介入で、急激な円高を懸命に阻止しようとする通貨当局の強い意志を示した形だ。(小島清利、佐野領)
「一週間に五円も動いている。(為替相場は)安定することが重要だ」塩川正十郎財務相は二十二日の介入後に行った記者会見で、急激な円高が日本経済に及ぼす影響を強く懸念した。
三月の日銀短観によると、大企業の製造業七百五十七社は平成十四年度の円ドル相場を平均一ドル=一二四円二一銭と予測して経営計画を立てている。だが先週末から円高が一段と加速。円ドル相場は二十一日、景気回復を支える日本の主要企業が予測する水準を上回り、二十二日にも朝から円高の上値を試す展開になったため、通貨当局は介入を決断した。
介入の結果、円ドル相場は一時、円安方向に一円五十銭程度戻った。通貨当局が景気回復に向けて円高を阻止する姿勢を明確に表明したことから、株式市場と債券市場も好反応を示し、今回の単独介入は「おおむね成功」(国際金融筋)といえそうだ。
通貨当局筋は介入を実施した理由について、(1)米国経済の回復速度が予想よりも緩やかになる可能性が出ている(2)日本経済は政府が景気底入れの認識を示したものの、不良債権問題もあって景気回復軌道を明確に描けていない(3)日米の景気格差が依然大きいのに、円高ドル安がこれほど進むのは行き過ぎだ−と説明する。
現在の日本経済は米国市場への輸出が頼り。急激な円高は、輸出主導で業績悪化をしのぎながら、設備投資や個人消費の回復を待つという景気回復のシナリオを狂わせる危険性をはらむ。
多くの企業は「為替取引は一定期間予約済みで、目先の変動による影響はない」(ソニー)としているが、これ以上の円高になれば、業績の「V字回復」を見込む輸出企業の足元をすくわれかねない。「底入れしたばかりの日本経済が回復軌道を歩むためには、外需依存しかない」(関係筋)のだ。円高リスクへの警戒感は強い。
しかし、米国や欧州の通貨当局は、国内事情による日本の市場介入に反対はしなかったものの、「現在の市場動向に大きな関心を持っていない」(国際金融筋)として協調介入には応じなかった。日本の通貨当局は当面、孤立無援で景気回復を左右する「円高阻止」に骨身を削ることになる。

これも批判的な論調ではない。むしろタイトルの「景気回復の正念場」とか最後の2行の「日本の通貨当局は当面、孤立無援で景気回復を左右する「円高阻止」に骨身を削ることになる」は日本頑張れ!!みたいな印象受けるよね。
僕の結論としては、産経ずりーってことの印象が残った。もちろん2002年と今じゃ介入/口先介入に対しての考え方が違うんだろうけど、それを差し引いたところで2002年はこんな風に書いてるんだし、やっぱり菅の口先介入で政府を責めるってのはどうかなと思ったわ。
てか思ったんだけど、ほとんど同じような発言*3なのに、これほど記事から印象違うってやっぱりマスメディアの力ってすげーな。しんぶんこわい。

*1:しかし産経の批判も一人のエコノミストの意見の引用で行っててホントお粗末だよな。

*2:追記:2週間ではなく翌年の12月で一年後の記事でした。

*3:菅も塩爺も日本経済、輸出企業やばいってことで円安誘導発言してるわけだし、本質的にはかわらない。