維新、移行組を除名

維新の党がついに分裂した。

維新の党:162人除籍し分裂 大阪側「処分無効」と反発
毎日新聞 2015年10月16日 東京朝刊

 維新の党は15日、新党「おおさか維新の会」に参加するとみられる大阪府内の衆院議員と地方議員ら162人を「党の結束を乱した」として除籍処分にした。14日に処分した馬場伸幸国対委員長ら3人と合わせ計165人の異例の大量除籍処分に踏み切ったことで、新党設立前に同党は分裂した。分党を決議する方針の大阪系をけん制する狙いがある。
 馬場氏らの除籍で維新の党の所属国会議員は51人から39人に減った。松野頼久代表は15日の記者会見で「勝手に党大会を開くのも、協議が破談になったらいきなり『代表には権限がない』と言うのも理解不能だ」と大阪系を批判。
 これに対し、大阪側は「処分は無効」(馬場氏)と強く反発。5月に松野氏が代表に選出された際、党大会を経なかったことや、9月末の任期満了時に執行役員会で任期延長を決めた点も問題視する。新党代表に就く橋下徹氏は15日、自らのツイッターで「任期切れの前代表と前執行部が大阪系を処分とは、オツムは大丈夫かい? 朝鮮労働党日本支部だ」などと松野氏らを激しく攻撃した。
 泥沼の分裂劇は法廷闘争になりかねない情勢。馬場氏は同日、執行部と法廷闘争になった場合は橋下氏の協力を求める考えを記者団に示した。
 馬場氏らは24日に臨時党大会を開いて新執行部を選出し、政党交付金を分配する分党決議を行う方針だが、執行部は「除籍者らが臨時党大会で決定しても無効だ」としている。【福岡静哉、飼手勇介】

これは睨んで、怒鳴って、刀に手を駈けながらもお互いにどこかで妥協点を探っていた今までの状態から、刀を抜いたことを意味する。ケンカになって刀を抜いてしまった以上、解決方法は斬り合いでどちらかが倒れるまで戦うことしかない。

しかし立ち回りが水際立っているのは前代表の江田憲司だ。今年五月に大阪都構想住民投票により否決された際に代表を辞任した。当時から維新はゴタゴタしてたけど、その後ゴタゴタがここまで来るのを予期したかのようにすっといなくなってしまった。辞任した当初はなんで辞任するんだ?女がらみの記事が週刊誌にでるらしい?いやカネの方らしいぞ?と噂になったが、その後そんな報道はなかった。
今週の連休明けくらいに分党でまとまりそうだという話があった。そこから江田が煽って除名の流れを作ったようだ。橋下は自分が先頭に立っておこなうケンカがうまいが、江田も自分が表にでないケンカがうまい。

 両陣営は14日、大阪系議員に限り「分党」を認める案で合意する寸前だったが、立ちはだかったのが新党組とそりが合わない江田憲司前代表だった。

 江田氏は「これは戦争だ。何を恐れているのか」と松野氏らを叱咤(しった)。14日の旧結いの党系議員の会合では「分党は認めない」と確認した。


産経新聞2015.10.16
「橋下氏「維新の党は朝鮮労働党日本支部」大阪系162人除籍方針にツイッターで批判」より抜粋

臨時国会も開かれないようなので、もう少しこのストーブリーグを楽しもう。

舛添を支援しない小泉進次郎は計算高い。都知事選での造反は処分できない自民党の歴史


細川出馬で都知事選の結果が分からなくなった。自民党は舛添擁立を決める時も党内ですったもんだの末に、「勝てる候補」ということで舛添の推薦を決定したのに「勝てないかもしれない」ので擁立の大義を失ってしまった。
早くも細川出馬に一役も二役も買った小泉純一郎元首相の次男進次郎は舛添は応援しないと明言している。私はこの発言を聞いて小泉進次郎はほんとに計算高いなと思った。自民党都知事選で過去も造反・分裂した状態で選挙を戦っているが、いずれも処分は軽い、あるいは処分なしになっている。自民党内で細川の掲げる脱原発にシンパシーを持っている議員は「国家を変える」、「自らの信条を貫く」ためにもバンバン細川の応援をするべきだ。舛添を応援しても勝っても今と何も変わらないし、負けたら負けでそれっきりだ。
さて、過去の分裂した知事選でその後の処分を追ってみたい。

91年 都連・本部分裂での都知事

91年の都知事選は現職の鈴木俊一自民党東京都連が支援し、自民党本部はNHK報道局長で新人の磯村尚徳に公明、民社と相乗りで推薦を出した。結果は都連が応援した現職の鈴木俊一が磯村に80万票の大差をつけ当選する。
その結果を受けて本部の小沢一郎幹事長が敗戦の責任を取って辞任するが、そのあとについた小渕恵三幹事長は「党内融和をはかる」として造反組の都連幹部や都内選出の国会議員に対しては一切処分を行わなかった

99年 4陣営分裂の都知事

99年はさらに混沌とした選挙だった。現職の青島幸男が出馬しない状況下で自民党は元国連事務次長の明石康を推薦する。しかし都連幹事長の柿沢弘治が反発し、議員を辞職し自ら出馬を決断する。さらには舛添要一石原慎太郎も出馬を決める。この4陣営に自民党の国会議員が分裂をして戦うことになる。

当然各議員の系列の地方議員が応援に回るので、地方議員も巻き込み熾烈な戦いになった。また都知事選後に行われた区長選などでも分裂する事態が起こった。結果は御存じのとおり石原慎太郎が当選、次点に民主党推薦の鳩山邦夫がつけた。
さて分裂の処分はというとこれまた軽いものであった。

  • 柿沢弘治陣営:柿沢除名、鯨岡は自ら離党申請し、受理される。
  • 桝添要一陣営:栗本は離党申請するも受理されず除名(盗聴法でも造反した結果)。
  • 石原慎太郎陣営:石原伸晃は役職停止3か月、平沼、小林は処分なし。

とまあ選挙の責任者というべき選対本部長の石原ジュニアですら役職停止3か月、石原を引っ張り出して党内から「A級戦犯」とまでいわれた小林興起も処分はうやむやになったままで終わってしまった。それ以下の水面下で応援した議員についてはまったくノータッチであった。
つまり都知事選での分裂は自民党にとってよくあることで、都知事選での分裂ごときで重い処分は下せないのである。小泉進次郎はそれを知っているのか平気で舛添を応援しないと言った。計算高い。小泉ジュニアだけでなく、もともと応援する大義のない舛添だったら、自らの政治信条に近い候補を応援したらどうでしょうか。自民党の先生がた。

東京都知事選 細川護熙、総理辞任の主因となった東京佐川急便 疑惑の1億円事件まとめ

昨日、細川元首相が都知事選に立候補すると発表した。
猪瀬前知事は徳洲会から5000万円を借りたのか、もらったのか、何に使ったのかで揉めに揉めて挙句の果てに辞任した。その次の知事として細川氏が出馬を表明したのだが、細川氏自身も94年に首相辞任の一因となったのが東京佐川急便からの1億円の受け取り事件だった。この記事では20年前のポイントをおさらいしてみよう。
調べていくと猪瀬と同じすぎて笑える。

概要

参議院議員(3期)であった細川護熙は1983年2月に熊本県知事選に出馬し当選し、知事を2期務める。その後92年に国政へと復帰し、8頭立ての馬車の旗手として非自民連立政権の首相となった。
問題となったのは熊本県知事選に出馬する直前の1982年10月ごろに東京佐川急便より借り入れた1億円の使途である。1993年春から週刊誌で火が付き、1993年12月から野党(自民共産)はこの1億円を選挙に使ったのではないかとみて国会で追及する。細川答弁は微妙に修正を重ねながら、新たな疑惑を生み出す(NTT株購入の件)がうやむやのまま細川辞任でいったん終了する。事件の構造は猪瀬と似ている。

ポイント1 借りた1億円の使途の説明がおかしい

1982年10月ごろから東京佐川急便から借りた合計1億円は細川いわく、7700万円はマンション購入の費用として、2300万円は熊本の自宅の山門や塀の修理に使ったという。しかしながらマンションについては借り入れた時期より2か月前に購入しており(つまり借りた前に既に買っていた)、自宅の山門、塀の修理については借り入れから7か月後・1年8か月後に修理の届け出が出ている。お金を年利8%で借りているのだから、1年後、2年後に使うのはとても信じられる説明ではない。猪瀬と同様に選挙直前に借りたお金であり、選挙で使ったのではないかと疑惑を呼んだ。

ポイント2 1億円を返済したかどうかが証明できない

猪瀬問題でもあまりにも簡素な借入書が問題となったが、この疑惑でも返済したかどうかの証拠が残っていない。1億円のうち1千万円については領収書が発見されたが、そのほかについては宙に浮いたままだ。細川の国会での弁明は別荘についた根抵当(1億円借り入れの担保という)が外されたことと、佐川急便側から提供された契約書などの6点セット*1によって返済したと主張した。本来保存しておくべき細川側の書類は殆ど紛失状態であった。
確かに細川のいうように政治資金を受けるのに別荘に根抵当をつけるというのは不自然だし、それはそうかとも思えるのだが、佐川側から提出された書類があまりにも杜撰なことが一層疑惑を黒くさせている。また、野党(自民党共産党)からの追及に「事務所がやったこと」、「佐川の資料だから私の関知しないこと」という一貫した答弁が余計に心証を悪くした感がある。
佐川側から提出された6点セットも割印がなかったり、書類の綴じる穴が左右ばらばらにあったり(なので書類が綴じて保存できない)、挙句の果てには返済した日が3年連続で佐川が営業していない12月31日だったりと、返済の証明というより書類自体を後から作ったものではないか、と疑惑を生むのに十分なものであった。

ポイント3 疑惑の二階建て NTT株売買

さらに疑惑が追及されていると、佐川から借りた1億円で買ったマンションを担保に、4億2000万円を借りて(義父が)NTT株を売買しておよそ5000万円の売却益を得た事実が明るみに出た。これについても細川は義父のやったことと我関せずといった感じだ。

そうこうしているうちに1994年4月に内閣の目標としていた政治制度改革を終えたとして細川内閣は総辞職し、この問題もうやむやのままで終わってしまった。
徳洲会から5000万円の借金の使途問題で辞任した猪瀬前知事の後釜に、これまた同じようなスキャンダルを抱え、政権を投げ出すような辞任した細川を据えるのもおかしな話だ。

*1:消費貸借契約証書、担保に関する覚書、根抵当権の設定契約書、貸付金台帳、領収書、利息計算通知書

自民党所属衆議院議員 大久保みよ のブログがヤバい

これほどの逸材を知らなかったのは痛恨の極み。

どこの市議だこいつはと思ったこいつは大久保三代(おおくぼみよ)、どうやら2012年の総選挙で当選した自民党衆議院議員らしい。
何でもかんでもブログに書いてしまう彼女の性格は痛い議員ウォッチャーの間では有名で、wikipediaにはその象徴たる文章が引用されている。

  • (昨日)なんと総理が、女川・東松島にお越しになり・・・「いいか、総理の横にぴったりくっついて、顔を売れ」というのが、県連会長からのこっそり使命なのです。
  • もし万が一、議員を引退しなくてはならなくなったら(民主党)安住先生のところに公設秘書で、雇ってもらうつもり。
  • (ブログについて党本部から指導があったようで)「よりによって、こんな時期に」実はただいま、ブログを怒られて自民党本部より、活動自粛を言い渡されたばかりなのです。
  • (参院選候補者のポスターを1000枚貼るよう全所属議員に指示した石破茂幹事長に対し)あ〜、胃が痛い。これはきっと、ストレス性イシバ症候群だわ。呼び出し5秒前なんだけど、説教されたからって、ポスターは1枚も増えないのにさ。説教されるまえに、貼れるなら貼ってるっつーの。説教したって無駄なのにさ
  • 大島組長(大島理森復興加速化本部長)より「ツイッターは、いい加減にしとけよ」と、ギロリ睨まれたので、組長の命令は絶対だから(笑)参議院選挙終了まで更新を控えます。ツイッターじゃなくてブログですけどね。

wikipedia 大久保三代 より

なんとも香ばしい議員だが、それに仕える秘書はもっと大変で、本人いわく(当選からの1年間で地元秘書が)5人も短期間でやめてしまい、なり手がいないそうだ。

そして今回、年末・正月を挟んで夫とのケンカ・離婚話までブログに掲載している。

「うわべだけの反省など意味がありません。友達がいないのはあなたの性根が腐っているからです。いまさら何も期待していません。」
「貴様が出産で死のうがガキがくたばろうが関係ないね。娘は交渉が成立するまで人質として預かる。アホめが。」
無理みたい http://ameblo.jp/okb-34/entry-11745720705.html

というような夫からの罵詈雑言メールを晒し、ひたすら透明な政治活動・情報公開に励んでいる。
それこそ特定秘密に指定してほしい情報だが。

参考 大久保三代公式ブログ いつみてもSocial work

頑張った政策立案者って誰? 行政のパフォーマンス評価の難しさ

もしあなたの企業の人事部や広報部の社員が、ある日突然数億円のボーナスがでたらどう思いますか?

金融日記で興味深いエントリーがあったので紹介。
日本は優秀な政策立案者のサラリーが安すぎるんじゃないか?
上にリンクした金融日記の論点を整理してみると

  1. 官僚の給料は(能力に比べ)安い
  2. 天下りによって生涯年収を埋め合わせている
  3. そんな構造が官財の癒着構造になっている
  4. それだったら国益と彼らのインセンティブを合致させて国のために頑張ってもらい、その代わり高給を取らせよう

とまあこんな感じだ。言ってることは正しいんだが、実際に考えてみると非常に難しい。
この話をややこしくしているのは行政のパフォーマンス評価が容易にできない点にある。学問的にもPublic Managementなんて分野で日々研究されてるんだが毎度その難しさが問題になっている。
以下、困難の原因を3つ程提起してみよう。

行政のシステムは予算が渡され、その予算を使い切る事にインセンティブが働いている

民間ではコストを抑えてパフォーマンスを多く生み出した人が評価される。しかし行政の世界では逆で、与えられた予算を使い切った役人がよい役人だ。コストを削減して予算を残すと、次年度から予算が削減されてしまう。これは非効率だが仕方のない話で、例えば生活保護で考えると、コストを抑えようとするとできるだけ支給するなという話になってしまい、貧しい人々は困ってしまう。であるから、国会で決めた予算(=国民が自ら決めた税金の配分)をきっちり守って使い切る事が最も正当性のある行動とみなされ、それは実践される。

環境省はサボればサボる程GDPの伸びに寄与する。

この例はある指標をパフォーマンス評価とした時に起ることである。金融日記の藤沢さんは例えば他国との相対的なGDPの伸びでの評価を提言しているが、GDPの伸び率に外務省の仕事なんて何の関係もないし、環境省なんて働けば働くほど抵抗勢力になってしまう。総務省統計局なんてブロガーに対する貢献度はクソ高い*1のに、彼らを評価する指標なんて作れるのだろうか?藤沢さんはGDPと多分ぱっと思いつきで言ったのだと思うが、このパフォーマンス評価の新しい指標、行政学の研究者は毎日真剣に探している。

仕事の内容がバックオフィス的。評価がし辛い。

言ってみれば、官僚の仕事は民間企業で言うコーポレート部門の仕事に例えられる。人事の人がどんなに頑張って配置をしたところで、それが最適配置だったのか誰もわからない。広報や法務もまた然り、どんなに頑張っても数字にはなかなか出てこない。彼らの頑張りようは評価が非常に難しく、いわば表に出てこない潜在的な損益を相手に戦う仕事なのだ。もしアメリカで一昨年リーマンブラザーズを救済していたら「リーマンショックを回避しました!」とオバマとその周辺の行政スタッフは評価されていただろうか?いや、そうではあるまい。
官僚にボーナスを与えるってのは証券会社で例えると、売買管理部門のある人間が数年後には1千億円に膨らむ可能性のあったトレーダーの不正を未然に防いだとして、その●%、●億円のボーナスを貰う、とかそんな感じ。未然に?とか、1000億って誰が試算したの?とかそういうツッコミがでてくる。
さらに言えば行政のパフォーマンスは四半期では現れてこない。それこそある官僚が「少子化対策に非常な貢献」をしたとしても、これって10年、20年経てばわかるかもしれないけど、現段階では全くわからないから賞与の仕様がない。

能力をどう生かすか

とまあ行政と役人のパフォーマンス評価がし辛いことがわかる。だけど今の官僚機構では日本の誇る優秀な頭脳を生かしきれてないのもまた事実。基本的には金融日記の方向には賛成だ。給料的なインセンティブもできるところ(評価できるところ)から始めていけばいい。外部の人間を入れることも進めるべきだ。
あとは政治家が人事権を握る事がカギだと思っている。いまの官僚機構の問題は自分たちの仕事に、自分たちが評価して、自分たちが人事を決めている点にある。この構造が外部の人間(御用学者以外の学者、経営者等)の排除や、天下りの多寡によっての行政を生み出している。人事権を政治家たちが握ることで、(一応)外部の人間が評価をした上で行政を行うことが可能となり、さらにそこから外部の人材の登用などの話も発展していくだろう。民主党の今回の案はどれだけ運用後に政治家がどれだけ官僚の人事に介入できるかにかかっていると考えている。

*1:よく参照してます。あーざーす

花粉症は公害病?

面白いヨタ話を聞いたので是非紹介したい。一説によるとスギによる花粉症は公害病であるという話らしい。その論理は以下の様になる。

  1. 花粉症が発見され、患者が激増したのは戦後である。
  2. 戦時中〜復興〜高度経済成長期を通して日本の森林は伐採され、代わりに大量のスギ(建築用材)を植林した。
  3. 花粉を散布するスギは樹齢30年以上である。
  4. 植林した時期+30年が患者激増期(1970年代以降)と重なる。
  5. あれ、これって公害病じゃね?

という事らしい。確かにスギの植林の時期や花粉症の激増の時期は上の通りの事実であり、十二分に信用する余地がある。ただし、衛生状態の向上によって寄生虫の感染率が低くなった(本来は寄生虫等を攻撃する抗体が暇になり、花粉を攻撃してクシャミや鼻水などのアレルギー症状が引き起こされる)ことも花粉症激増の強い要因の一つだろう。最近ではサルですら寄生虫がいなくなって花粉症になるとか。どんだけだよ。
何にしろ、「森林伐採」に関する解決策である「植林」が全く別のところで害を引き起こし、行政の難しさを感じさせる一例であるといえる。あと完全に蛇足だけど「春風邪は長引く」って昔からありそうな格言、花粉症の事じゃね?この時期から大体ゴールデンウィークまで鼻水でるんだけど。ちくしょう。

塩爺時代の産経の論調

産経は日本経済を政争の具にします(唖然)
小泉政権時代に塩川正十郎財務大臣が連発していた「円安誘導発言」
目が回る程に時間がないんだけど、ふと見てしまった上2つの記事が気になって塩爺時代の産経の報道姿勢を調べてしまった。
上のリンクによると産経は菅発言を(1)「国際協調」なしでの (2)「根拠の乏しい口先介入」で市場を混乱させたってという2つの理由で批判してるね*1。じゃあ口先介入してた塩爺時代は産経の論調はどうだっただろうか?ってのが本エントリーの趣旨。
ただその前に留意点を2つ。

  1. 2002年当時から介入に関しての考え方が変わっている:単独での介入自体が良くない/効果がないという認識が広まっている。
  2. 社会の考え方が変われば当然新聞の論調も変わる。

てなわけで仮に産経の姿勢が変わっててもしょうがないっちゃあしょうがないんだけど、とりま、当時の状況から。

  • 塩川の円安誘導発言は2001年12月。
  • それ以前に2001年9月に既に(口先じゃない本物の)介入を行っている。ただしこの際は数日前にアメリカ財務長官に会い、協議している。
  • 塩川の口先介入は効果なく、結局2002年5月に今度は国際協調なしの「単独」介入を行っている。

こんな環境下での産経の論調を調べてみた。結論から言うと産経、これら一連の介入と口先介入についての批判の論調はない。むしろ歓迎ムード。
まず、下の記事は塩川の円安誘導発言後2週間くらい経ったとき*2の記事。

産経新聞 2002年12月24日 東京朝刊 総合・内政面
政府も与党も野党も円安誘導に願い託す? デフレ解消期待/新党でも検討
デフレ克服の切り札として、政府・与党と野党の双方で現在の一ドル=一二〇円前後の円相場を下げる「円安誘導論」が急速に広がっている。輸出企業の追い風となるだけでなく輸入物価の上昇がデフレ解消につながるためだ。保守党と民主党の一部による新党結成でも検討されており、今後の小泉政権の経済運営でも大きな焦点になりそうだ。
◆対外協調必要だが…
円安誘導論をめぐっては、自民党額賀福志郎幹事長代理や保守党の野田毅党首らが折に触れ「円はなだらかに安い方向に誘導していく政策が考えられていい」と主張。自民党有力者も最近、先進各国が円高ドル安の為替政策で一致した昭和六十年のプラザ合意を引き合いに「三年くらいの期限付きで円安に固定するよう米国にお願いするしかない」と述べている。
さらに、保守党との新党結成を目指す熊谷弘民主党副代表が政策の柱として円安誘導を打ち出したことで議論は一気に過熱。民主党枝野幸男政調会長らがもともと円安誘導論を提唱していたこともあり、同党の菅直人代表は「効果があるなら、どんどんやるという方向で議論してほしい」とわざわざ熊谷氏に同調してみせ、新党の“大義”を打ち消そうとしている。
これまでの小泉政権の経済政策をめぐっては、政府と与党の対立が際立っていた。しかし、一連の円安誘導論は従来の構図と違い、政府側にも円高是正の機運があることが特徴だ。塩川正十郎財務相は現在の為替相場は行き過ぎた円高だとみており「財務省幹部が与党の根回しをしている」(自民党関係者)との指摘もある。
これは構造改革と当面の景気刺激策のはざまで、財政や税制上の有効なデフレ対策を見いだせない小泉政権のジレンマでもある。円安誘導の手立ては、円売りドル買いの市場介入や日銀による米国債の購入など日銀がかかわるものばかり。デフレの責任を日銀に押し付けている面も否定できない。
首相は来年三月に任期切れを迎える速水優日銀総裁の後任は「デフレ退治に積極的な人」と強調しており、円安誘導論と次期総裁人事が結び付けられる可能性もある。
もっとも、円安誘導は日本だけの事情で実現するのは困難。景気が悪化している米国が、対日貿易赤字の拡大につながる円安誘導を容認するかどうかは不透明だし、中国などアジア諸国も対日輸出への悪影響を懸念する可能性が高い。各国との協調が得られなければ、「絵に描いたもち」になる。
自民党内でも、麻生太郎政調会長堀内光雄総務会長らは「景気が悪いまま輸入物価が高くなると大変なことになる」(堀内氏)と慎重論を示している

こんな感じで批判的な論調は全くない。ラスト2段落の文脈は読者に批判的な印象あたえることなく、「円安誘導、気をつけてやってね」みたいなすげーソフトな書き方。むしろワラタのは菅の「効果があるなら、どんどんやるという方向で議論してほしい」発言で、なんだ、産経より菅の意見の方が一貫してんじゃん。カンだけにイッカンなんt・・
さて次。もう一つ引用は政府が2002年5月に「単独」で介入した時の記事。もし今回の菅発言を「国際協調を無視」って事で批判してるならこちらも産経は批判してなきゃいけないはずだ。

産経新聞2002年05月23日 東京朝刊
政府・日銀単独介入 円高阻止強い意志 30億ドル規模「景気回復の正念場」
 政府・日銀は二十二日、一ドル=一二三円台まで急伸した東京外国為替市場で、八カ月ぶりに円売りドル買いの市場介入を実施した。市場筋によると、三十億ドル(約三千七百億円)程度と大規模な単独介入で、急激な円高を懸命に阻止しようとする通貨当局の強い意志を示した形だ。(小島清利、佐野領)
「一週間に五円も動いている。(為替相場は)安定することが重要だ」塩川正十郎財務相は二十二日の介入後に行った記者会見で、急激な円高が日本経済に及ぼす影響を強く懸念した。
三月の日銀短観によると、大企業の製造業七百五十七社は平成十四年度の円ドル相場を平均一ドル=一二四円二一銭と予測して経営計画を立てている。だが先週末から円高が一段と加速。円ドル相場は二十一日、景気回復を支える日本の主要企業が予測する水準を上回り、二十二日にも朝から円高の上値を試す展開になったため、通貨当局は介入を決断した。
介入の結果、円ドル相場は一時、円安方向に一円五十銭程度戻った。通貨当局が景気回復に向けて円高を阻止する姿勢を明確に表明したことから、株式市場と債券市場も好反応を示し、今回の単独介入は「おおむね成功」(国際金融筋)といえそうだ。
通貨当局筋は介入を実施した理由について、(1)米国経済の回復速度が予想よりも緩やかになる可能性が出ている(2)日本経済は政府が景気底入れの認識を示したものの、不良債権問題もあって景気回復軌道を明確に描けていない(3)日米の景気格差が依然大きいのに、円高ドル安がこれほど進むのは行き過ぎだ−と説明する。
現在の日本経済は米国市場への輸出が頼り。急激な円高は、輸出主導で業績悪化をしのぎながら、設備投資や個人消費の回復を待つという景気回復のシナリオを狂わせる危険性をはらむ。
多くの企業は「為替取引は一定期間予約済みで、目先の変動による影響はない」(ソニー)としているが、これ以上の円高になれば、業績の「V字回復」を見込む輸出企業の足元をすくわれかねない。「底入れしたばかりの日本経済が回復軌道を歩むためには、外需依存しかない」(関係筋)のだ。円高リスクへの警戒感は強い。
しかし、米国や欧州の通貨当局は、国内事情による日本の市場介入に反対はしなかったものの、「現在の市場動向に大きな関心を持っていない」(国際金融筋)として協調介入には応じなかった。日本の通貨当局は当面、孤立無援で景気回復を左右する「円高阻止」に骨身を削ることになる。

これも批判的な論調ではない。むしろタイトルの「景気回復の正念場」とか最後の2行の「日本の通貨当局は当面、孤立無援で景気回復を左右する「円高阻止」に骨身を削ることになる」は日本頑張れ!!みたいな印象受けるよね。
僕の結論としては、産経ずりーってことの印象が残った。もちろん2002年と今じゃ介入/口先介入に対しての考え方が違うんだろうけど、それを差し引いたところで2002年はこんな風に書いてるんだし、やっぱり菅の口先介入で政府を責めるってのはどうかなと思ったわ。
てか思ったんだけど、ほとんど同じような発言*3なのに、これほど記事から印象違うってやっぱりマスメディアの力ってすげーな。しんぶんこわい。

*1:しかし産経の批判も一人のエコノミストの意見の引用で行っててホントお粗末だよな。

*2:追記:2週間ではなく翌年の12月で一年後の記事でした。

*3:菅も塩爺も日本経済、輸出企業やばいってことで円安誘導発言してるわけだし、本質的にはかわらない。