失敗から学んだ民主党

選挙が終わり、結果は事前の報道通り民主党が大躍進を遂げ、超絶サプライズがない限り鳩山内閣が誕生することに決定した。
今回の選挙は地滑り的な結果からか、2005年の「郵政選挙」と対比される。しかし郵政選挙と今回の選挙とで大きく違う点がある。2005年は小泉が解散に打って出た際に、「9.11自爆解散*1」と報道され小泉自民党不利と予想されていたが、解散後に大きく自民支持を取り付けた。それに対して今回の選挙は自民党がどう考えても負けると目されていて、本当に大敗を喫するという性質のものであった。2005年の時は開票直後の速報で「自民300議席へ」という報道を見てビックリしたが、今回はなんとなく「ああ、やっぱりな」と多くの人が思ったであろうその感覚だ。つまり前回の総選挙は自民が中盤から差したのに対して、今回の民主党の勝利は始めから最後まで自民に付け入る隙を与えず、先行逃げ切りで勝った感じだ。

民主党の強みと自民党の強み

今回の先行逃げ切りは容易に思うかもしれないが、民主党のキャンペーンの運用もなかなか上手かったのも事実である。というのも今回の民主党は自分の強み(Strengths)を「政権交代」と十分認知をしており、選挙期間中こいつを揺るがすことが全くなかった有権者の中には「政権交代政権交代としか言わなくて・・」と不満を持っていた方もいると思うが、これは民主党の戦略だ。他のアジェンダについて言及すること自体が自民党に「つけ入る隙」を与えることになる。財源についても、外交についても、故人献金についても、西松についても、国旗をやぶったことについても、決して深入りしない。テンプレ通りに答えて最後に「強み」である「政権交代」を訴える、これを徹底していた。
このぶれないアジェンダ設定は2005年の自民党の「郵政民営化」のまさにそれだ。民主党は必死にほかのアジェンダを持ち出すが、小泉は決してぶれることなく「郵政民営化」を唱えて勝った。「郵政民営化」の場合は有権者潜在的なニーズ(解散直後は支持が表に出ていなかった)を顕在化させたところにも凄味があるが、基本的に強み以外の話に乗らないという部分は同じだ。民主党は学んだのだろう。
一方の自民党は悲惨だ。「強み」が何一つない。通常、政権担当政党は過去の実績を強みにするのだが、今回は何の実績もない。経済も、外交も。かといって革新的な政策を打ち出そうとしても、麻生の立ち位置は改革とは明確に一線を画したものであった。結局できることと言えば、公明党の動員に頼るか、民主党のラーメンのCMを作ることぐらいだ。「自民のネガティブキャンペーンの無様さ」や「元首相も「比例は公明党」と呼びかける」などの報道があったがこれは「必死」なのではなく、他に訴えかけることができないのだ。もし仮に自分が自民党の候補者だとしたら、何を強みに演説できるだろうか? 何もないのだ。

ポジショニングの重要性

麻生は選挙後の敗戦の弁で小泉、安倍、福田のせいだ、と言わんばかりだったが、戦犯は麻生だ。
上に書いたような自民党の強みのなさは麻生がポジショニングが明確にできなかった所に発している。強みとは実績だけでなく、将来的なビジョンでもなりうる。では今回の自民党はどこに軸足を置くか、まったく伝わってこなかった。仮に縦軸に改革-保守、横軸に福祉(大きな政府)-減税(小さな政府)を置くとしたら民主は改革・福祉とわかるが、では自民党のポジションはどこだったのだろうか。少なくとも小泉、安倍はちゃんと明確な自身のポジショニングをしていた。ポジションなくして未来が語れるわけがない。自民党政権になったらどういう世界にしてくれるのだろう、という想像も期待もさせてくれない。結局なんとなく「政権交代」のムードに有権者が飲みこまれてしまったと言える。
とまあ、後講釈というやつだが、今回の民主党の「空中戦*2」は非常にうまかったと思う。一方の自民党側のPRの電通は困っただろうな。SWOTしたって全然強みでてこないないもん。

*1:ちょうど9月11日が投票日だった。

*2:マスメディア上での戦い。地元での握手したり、盆踊りしたりする戦いは「地上戦」。