民主党の掲げる「国家戦略室」で何が変わるか

今日は民主党の掲げる国家戦略室について考察してみよう。

自民党の事前審査制度

まずは今までの自民党支配の説明から。
下の図は1955年以降の日本の政策が作るまでの流れを示している。キモは「事前審査」だ。民主主義というのは多数決であって、多数の賛成が得られればそれがルールとなる。そして議会の上での多数は常に自民党だった。すなわち、自民党の決めた方針が政策になるのがこの国のシステムであり、国会以前の自民党内の議論で政策はほとんど決まっていたのである。

上の図を説明しよう。左側は自民党内での政策決定の流れである。まず自民党内の政務調査会の部会で議論される。政調会の部会は各省庁、国会の各委員会と対応していて、例えば外交についての話であれば外交部会、防衛であれば国防部会といった具合だ。この部会に対応した各省庁から官僚がきて、彼らの書いた法案を説明し、政治家を説得する(ここで説得できればもう法案は通ったも同然だ)。政治家はここで自分の都合の悪いことがあれば官僚たちに文句を付け、修正させる。こうやって政治家は専門的な知識をつけ、族議員化していく。各部会には影響力の強い議員がおり、その議員がウンといえば部会が通る、これが族議員の力だ。んでもって族議員は特定の利益集団(農協、土建屋、医師会とか)と繋がっていて、彼らの意見を政策に反映させるわけだ。
さて、部会を通ったら政調会で政策全体の調整をなされた後、自民党としてその政策を支持するかどうか判断する総務会にかけられる。総務会は原則として全員一致で決められる。郵政民営化の時紛糾したアレだね。この総務会でOKが出れば、自民党として党議拘束がつけられることになる。自民党過半数を取っている以上、党議拘束がつけられれば党内から反逆者が出ない限り国会でも100%通過することになる。
次は国会だ。国会は委員会での議論・採決を経て、本会議で議論・採決がなされる。しかし、過半数を取っている自民党がすでにOKしてるのだから、いくら野党が論理を立てて反論をしても意味がない。居眠り国会になるのは当たり前だ。もう結果でてるんだから。そして、どうしても潰したい法案に対して野党のやることは実力行使しかない。牛歩戦術だ。野党は牛歩戦術を通して与党の妥協を引き出していた。「牛歩しないから、少し譲歩してよ」「うん、しょうがないなぁ」と。さあこれで野党支持者の民意も反映された。無事法案は民主的に可決された。

民主党の国家戦略室って?

以上は古き良き(?)時代の話。では今回の民主党の国家戦略室が設立されるとどうなるの?って話だ。上と同じように図示しよう。

55年体制と違い、政策を管理するのは「政府」だ。55年体制のような「党」ではない。その代り民主党の議員を多く政府に入れようという方針だ。で、図示したもののまだわからないことが多い。とりあえず政策を政府の機関・国家戦略室で一元化するらしい。そして予定だと分科会(図では???)を作り、有識者や議員を参加させて政策を作るとのこと。一件スマートな印象を受けるかもしれない、問題はこの分科会のメンツだ。

  • 有識者って誰?その人は政治をする正当性はあるの?
  • 族議員が分科会に入ったら今と変わりないじゃん。
  • 官僚が入っても、アレ、官僚政治の脱却・・・?

という感じだ。結局、かつての与党審査と何が変わるかと言えば民間の有識者が参加することくらい。小泉政権下の経済財政諮問会議のコンセプトと同じだ。だけど「有識者」と呼ばれる人たちってホントなんなんだろうねと思う。まず彼らってどういう基準に選ばれているのだろうか全く不明。有名企業の前社長?大学教授?金融機関の偉い人?これらの人って本当に国のために仕事するのかすごく疑問だ*1。別に国民に選ばれてる訳でもなく正当性も全くない。そしてしばしば言われることだけど、有識者の人々は会議に参加するものの、当日担当の役人に「これ、本日の資料です。」と100ページくらいある資料渡されて会議する。こんなん消化不良もいいところ。官僚は官僚で都合のいい情報だけ載せてくるだろうし、反論の余地がない。こんな感じで運用されるのであれば、国家戦略室も官僚の作った法案を「有識者」の人々がお墨付きをあげる機関で終わってしまうんじゃないのかな。

結論

結局のところ、国家戦略室は旧来のシステムの箱を変えただけで、実際はほとんど何も変わらない。問題の根幹は2つで、情報を持っているのが官僚しかいない。情報もとに法案を書けるのも官僚しかいない(能力的にもマンパワー的にも。) からだ。彼らに対抗できる勢力を作らない限り、どんなに形を変えようと結局官僚のだす法案を許可するか、許可しないかという権限を持つのが限界だ。いくら政治家主導有識者の意見を取り入れたところで、法案を文章化する時に官僚任せになる(官僚しか書けない)ため、彼らの都合のいいように骨抜き化される。打ち手としては、アメリカのように、1人の議員につき十数人の政策スタッフを雇えるようにして議員立法能力を高める。あるいは党で100人、200人規模のシンクタンクを作って彼らが独自の情報を管理し、党の政策を具体的な法案として落とし込めるようにする。このようなより根底からした抜本的な構造改革が必要だ。

追記:極東ブログが予算決定権を軸に国家戦略局を論じている。確かにこれは重要な問題だわ、骨抜き化される恐れあり。参考までにどうぞ。
国家戦略局の迷走の先にあるもの:極東ブログ

*1:例えばオリックスの宮内会長なんてわかりやすい例だ。クロいかは不明だが、自社のいいように利益誘導と言われればそれが可能な地位にあったのは事実である。