自民党時代の官房機密費:情報収集と宴会費


民主党が野党時代に使った官房機密費への追求がブーメランとなって自らを攻撃している。そんなわけで過去の官房機密費にかかわる問題を以下整理してみた。
かつて何回か官房機密費(正式には内閣官房報償費)は問題になっているのだけど、問題はだいたい2つ。 個人の私的な使用 と 与党の党略に基づく使用 という、いずれも使用用途を公開していないから起きる問題だ。ただし、報道や議事録を見ていると、国家として情報収集にかかわる機密費は必要であるというコンセンサスは各党にあるように思う。
機密費については、かつて田中真紀子が外相の時に松尾事件(外務省のノンキャリの星と呼ばれた松尾克俊が外交機密費を競馬等に数億円私的流用した事件)が起こり、外交機密費のついでに官房機密費にも飛び火した経緯がある。んでもって、その後に塩川発言(後述)とか機密費から自民党議員のパー券を買ってる*1とかが議論になって、2002年6月に福田官房長官(当時)が3つの使用目的に官房機密費を使うと初めて明文化した*2
その3つ(+α)とは

  • 政策推進費(=「官房長官の高度な政策的判断により、機動的に使用する経費」):法案取りまとめや成立に向けた、関係団体との会食費
  • 調査情報対策費(=「必要な情報を得るための経費」):政府高官と情報提供者との会食費や情報提供者への謝礼など
  • 活動関係費(=「政策推進や情報調査活動を支援する経費」):与党などへの支出

それらに加えて

読売新聞 2002.06.23「官房機密費に運用指針 3分野に使途限定 出納簿を整備 政府、初の明文化」をもとにまとめた

この明文化ももはやあってないようなもので、やりたい放題できることが明文化されただけだ。つまりは少なくとも月に数千万円は官房長官の決裁で完全自由に使うことのできるお金であると。発表の同時期に報道されたのが加藤紘一官房長官の時に公明党(当時野党)議員にスーツの仕立券を送ったって話だ。これが立派な「政策推進費」だという。では与党議員のパー券を買うのも政策推進費なのだろうか。
さらにはずさんな使用用途は塩川正十郎官房長官経験者)と共産党の穀田恵子の国会でのやりとりからもみられる。野田が官房機密費を自民党の党略に使っていると追求。サンデープロジェクトでの塩川の失言(?)を追求。

問題の核心は、七十二億円もの国民の税金が国会対策やせんべつに使われていたという、機密費の党略的な流用にこそあります。(中略)
本年*3一月二十八日放映されたテレビ朝日の「サンデープロジェクト」という番組で、機密費について発言をなされています。私は何度もそのビデオを見て確認しましたが、こう言われています。
(機密費を)野党対策に使っていることは事実です。現ナマでやるのと、それから、まあ要するに一席設けて、一席の代をこちらが負担するとかと述べ、どなたが金庫に入れるのかとインタビュアーの質問に答え、官邸にあります会計課長です。それは、参事官がおりますが、それと相談して入れます。幾らぐらい常時入っているのですか。私が官房長官のときは四、五千万ですかね。一週間に一遍ぐらい、あるかどうか会計課長がのぞきに来て、それで足らなかったら、ちょっとふやして入れてくれるという状態ですね。大体百万円単位で袋に入れています。こんなふうに語っています。この発言は事実ですね。
平成13年5月15日 衆院予算委員会

この後の答弁と質問のやりとりめちゃくちゃ面白いので一個下のエントリーにコピペしておいた。一貫した「記憶にございません」の腹芸が見られる。でもまあ塩爺官房長官だったのは宇野内閣の時で、随分古い(89年)上、2カ月間だけだから実際あんまり知らないのかもしれない*4
こんな風に使われてたのが官房機密費だ。確たる証拠はないが選挙対策にも使われたんだろうなあと考えるのが普通だ。そしてこれは国のお金であって、党のお金ではない。
今日のニュースで今年の選挙直後に2億5000万円支出したことも明らかになった。これに触れて浅尾慶一郎選挙で使われたかもねと言ってるが、鳩山は前政権のことであって「とやかく言うつもりはない」と調査しない意向だ。
さて、この発言でありありと筋書きが見えてきた。近々機密費の話は立ち消えになるだろう。何故なら、民主党が攻め立てられ「じゃ、過去の使用用途を調査の上、ルールを作りましょう」てな流れになったら攻守逆転、今度は自民党が攻められる番だ。鳩山が2億5000万円について「調査しない意向」というのは単にカードをチラつかせたようにしか思えない。さあこれから数年間、機密費を使えるのは民主党の番だ。

重要な追記) 読売の記事から。政権交代後、新官房長官に交代した際金庫から金は消えていたそうだ。

平野長官はこの日の記者会見で、河村前長官から官房機密費に関する引き継ぎを受けた後、金庫の中には、現金が全く残っていなかったとした上で、「前政権の官房長官が必要に応じて支出された。国民目線からおかしいと言っても、私の立場でコメントするのは差し控えたい」と話した。
読売オンライン 「衆院選直後、機密費2億5千万円支出…使途は不明

上の塩爺の話からみて、官房機密費は「常時ストック」されていて必要に応じて使う性質があるようだ。にもかかわらず金庫に現金が空っぽだった、というのは川村官房長官が持って行ったと考えるのが普通だ。いかんせん現ナマだし、足をたどるのは無理だろう。

関連エントリー塩川と穀田のやりとり全文

*1:読売新聞 2002.04.13「12日公表された共産党の官房機密費文書要旨」東京朝刊

*2:読売新聞 2002.06.23「官房機密費に運用指針 3分野に使途限定 出納簿を整備 政府、初の明文化」

*3:2001年

*4:ただし、任期中に参院選もあったので選挙対策目的での支出があれば知っている立場だ。